減災コミュニケーション・バンダナデザイン・コンテスト2016 | 展示・結果 - 表彰と結果 - コンテスト総評

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減災コミュニケーション・バンダナ デザイン・コンテスト2016
総評

平林 英二(審査委員兼コンテスト事務局)

2016年12月

【審査結果発表 遅延のお詫び】

まず、この度の審査結果の発表が予定時期から大幅に遅れたことにつき、エントリーいただいた提案者のみなさま、審査委員各位、および関係各位に心よりお詫び申し上げます。

遅延の理由は、調度、審査の結論を出すべき時期に平成28年熊本地震が発生したということと関係しています。簡潔に申し上げると私どもとしては、減災をテーマに取り組んできたこのアクションの成果に結論を出す上で、目の前で発生した大災害について無意識に事を進めることがどうしてもできませんでした。そのため遅延のきっかけが生じました。その後はすっきりと落ち着く事のないまま続く地震被害の変遷、動向を見つめる中で、改めて体制を立て直す時期をうまく捉えることができず、結果2016年の末ギリギリに至ってしまったという状況がありました。しかし、これは述べましても言い訳としてしかお伝えできないと自覚していますので、これ以上は申し上げません。すべて私がリーダーとしてあった事務局の推進能力が不足していたということが最大の原因であるということに尽きます。この点につき、まず深くお詫び申し上げます。

【提案作品の全体像総評として】

この度のコンテストには、エントリーナンバーとしてNo.49までの作品が寄せられました。我々が「減災コミュニケーション・バンダナ」という概念を打ち出したことに対し、この意義・意味・機能を多様に深くさまざまな答えとして打ち出す優れた提案が数多くありました。提案いただいたみなさまにまずは心からお礼申し上げます。

【評価の方法の考え方について】

評価方法については他項にてお伝えしているので、ここでは、評価方法を選定した考え方について簡略に要点のみ記します。

まず審査委員の選定においては、「減災」とそのためのデザインという切り口につながる点で、何かしら具体的な実践ご経験値をお持ちの方を探し、お声がけさせていただきました。「バンダナのコミュニケーション機能に関するデザイン」のコンテストという発想はこれまではなかったことと思いますので、どなたにおかれてもはじめてこの世界に関しての評価をされることになります。その上では、ご自身のこれまでのご経験値とお持ちの知見をフルに発揮し、審査委員として公平性ある視点・見識において評価していただいたと感じています。

事務局からは審査委員の方々に、全作品に対し5つの評価軸における数値での評価をお願いしました。事務局は各位から提出されたデータを集計し、各評価軸における結果と、これらの結果を総合的に示す結果(複数の計算方法による平均値を出し、さらにそこから総合評価としての数値を導く)を用いて、ここで現れた数値のみを頼りに審査結果を導きました。

今回、このような方法で、審査委員によって出された結果に、人為的な思考を挟まず、数値結果の集計のみによって導きだされる結論とすることが、最も公平なものになると結論しました。

結果は、別ページにて公表の通りです。

【0次の備え的価値が高い作品多数】

非常時に、それを伝えるために用いるサイン機能としてのバンダナというものは容易にイメージが沸くと思います。例えば、真紅等の目立つ色彩を用いて緊急であることを伝えるものなどが想像できます。しかし今回のテーマには、特段緊急を要さない「日常」と、そこからある時突然に立ち現れる「非日常」の、その双方を扱うことが込められているために、プランにあたって頭を悩まされる方が多かったのではないかと思います。ですが、結果、そうした「日常と非日常の接点」的なシーンの多様な有り様へのイマジネーションを各位各様に描いていただき、それぞれ、「なるほどそういうシーンにおいてこんなコミュニケーションが発生するかもしれない。そのときこのバンダナがあれば便利に違いない。」という発案を多数いただくことができました。コンテストを行うことによって、みなさんの力で多くのシーン想定のバリエーションが得られたことは、まずはこのプロジェクトとしてとても価値のある大きな財産になったと思います。

【発案に見られた類型についての整理】

各提案を並べて見ると、どんなコンセプトが込められたか、またどんな使い方をするかについて、いくつかパターンとして認められる傾向がありました。これは、各提案のテーマ・完成度等とは別途、バンダナというものにもたらすことのできる機能可能性として捉えることができると感じましたので、この主なところを整理してみます。今回のコンテストでは、以下にお伝えするような概念での使い方において新しい価値を生み出そうとする提案を多様に寄せていただいたということを確認しておきたいと思います。また各提案単位においてはこうした特徴を複数兼ね備えるものもあったことを添えておきます。

1)フラッグ機能

少し小さ目かもしれませんが全面を広げて見せることによって、バンダナは旗として機能させることができます。周囲の人々にサインやメッセージを発信したり、適切な行動を誘導する等の機能を込めます。また、そのフラッグを目にする方々の中に「このことの必要性がある人はいませんか?」とニーズを問いかける(おうかがいを発信する)タイプもありました。この特徴は減災バンダナの発案ならではと感じました。

2)二つ折り、2面リバーシブルでの情報伝達

バンダナを対角線で二つに折ると、首や頭に巻いたり、マスクとして口にあてることができます。その時に露出する面を使ってメッセージを発信することができます。基本的には2項目のどちらかを選択して表示することになるため、自ずと「助ける・助けてもらう」ため、「求める・提供する」ためといった、対語的な関係にある双方を込める発案が多くありました。またこの関係をバンダナの表裏リバーシブルで展開する提案もありました。

3)折りたたみ・多面使いによる、情報・ニーズ・感情の選択伝達

1枚の布を何度か折り畳むことで、その折れ筋を境界として現れる複数のスペースをコマとして利用し、諸々の情報を掲載します。いくつもの選択肢があることがらの中から、自分の意志や感情を伝えます。「食物アレルギー」の要因のようにそのジャンルの中での自分の特性や、自分が今置かれている状況がいずれの状態であるかを伝えることなどが込められます。これは今回寄せられた提案以外にもまだ今後、さまざまなテーマでの発案可能性がありそうです。使い方としては、必要なコマの面が見えるようにして示し、指差しにて対話者とやりとりすることがイメージできました。言語を含む各障がいを前にお互いがこれを乗り越えるために有効に機能するとしたら、携帯したい心強いアイテムになると感じます。

4)知識・スキル・情報の掲載

非常時に必要となる知識や情報、How toをプリントし、携帯しているこれをいざというときに役立てます。従来から減災グッズとしての布製品にもある発想ですが、単に一般的な防災知識ではなく、何かしら具体テーマに特化してノウハウをまとめることによって別の価値が創出されることに気付かされました。また、一般情報のみならず「持参する個人にとって必要な情報」に特化して記載し、それを常時携帯するという発想も、減災バンダナらしい様々な展開可能性があると思いました。

5)ニーズ等の直接書き込み

図柄の中に白い無地の場所を用意し、そこに実際にマーカーなどで必要な情報を書き込んで使うという考え方。コンテスト事前の例示において示したのがこのタイプであったことにより、この方向性での多様なデザイン可能性や、扱うテーマ、また逆に、捉えたテーマをいかなる方法で具現化するのか等においても、様々な方法・可能性があることが示されました。

6)個別の事情の表明、SOS発信

障がいなどの「自分に特例的な状況を、他者と区別して認識してもらうこと」を周囲の人々に対し発信することが必要な時がある。そのためにバンダナを活用しようという発案。これは1項目目の「フラッグ機能」と似ている面もありますが、大切と感じたのであえて観点として押さえておきます。周囲の人の中における自分(たとえば避難所に入った人々の中における自分)の特性の認知を促すために機能します。またバンダナを使ってSOSを発信することについても、この類として考えることも大切かと感じました。「ここにいる全員のSOSを伝える」ことと、「今ここにいる人の中で、私自身が周囲の人に対して個人としてのSOSを発信したいのだ」ということとは、意味が異なります。結果、それぞれに求められるデザインも変わってくるはずということへの気付きをいただきました。

7)図柄で勝負

今回コンテストの事前例示では、文字を伴うことによって情報伝達をはかれることを示していました。が、この発想を翻し、必ずや文字を掲載しなくてはならないわけではないことも提案されました。色、記号、サイン、感性・・・ある目的を達成するグラフィックを仕上げていく中で「コミュニケーション」の中には、文字のない情報伝達・交流による方法・可能性がいくらでもあることを教えられました。

8)挨拶・出会い・コミュニケーションの誘い〜一致団結、絆のシンボル

具体的に何ができるとか、してほしいということのやりとりを始めるためのことが込められてなかったとしても、「私はあなたのことを思っている。何か力になれるかもしれない。」とだけ示すだけでよい場合もあることに気がつかされました。それこそがコミュニケーションの第一歩であり、その一歩を踏み出す、切り出すことにバンダナが貢献できるなら、それも極めてシンプルな「減災バンダナ」なのかもしれません。互いが知り合ってしまいさえすれば、後は、物理的な情報をバンダナを介してやりとりする必要はなくなります。必要なやりとりは直接言葉で進めれば良いのですから。

また被災地の支援活動などでは、共に同じ目標を掲げて一致団結する際に、同じバンダナを用いて心をひとつにするといった意味での使い方が、本来のバンダナの機能役割に込められていることもあると改めて思い寄りました。

今回のコンテストの成果から、主に以上8つの観点を大切な視点として確認できたことをお伝えします。

【減災バンダナ、共通する課題】

今回示された提案により、バンダナの機能や活用の可能性に様々なテーマ・方向性があることがわかりました。これは今回のコンテストでの大きな成果となりました。

ただ、課題にも気がつかされました。

あるデザインが、そのピクトグラムや色彩、そして文字掲示等において、特定情報のシンボルとして確実に機能するためには、そのデザインがあらかじめ普及し、共通した認知として多くの人に受け入れられている必要があります。図でも言葉でも、極めて象徴的であるその記号は、初見から誰もが共通の認識・理解で捉えてもらえるかが難しい場合もあります。例えバンダナを社会に数多く配布できたとしても、それだけでは適切な活用はなされない。用いる側にその意図の理解とともにお渡しできるかが大切です。

事前学習がなくとも、誰もが初見でその意味を理解できるという機能やデザインもあると思います。一方で、まだ認識の普及がないけれど今後活用が願われる新しい発案もあります。このようなバンダナを世に送り出そうという時には、それが本当にうまく機能するのかどうか、実際に使って試す実証実験を踏むことの必要性も感じます。そこでデザインの真価は考察され、必要に応じて改良することで、本当に使えるバンダナへと発展させられるのかもしれないと思います。

我々は、この課題についても手を尽くしていく必要があると感じています。我々のプロジェクトがこの課題に取り組んで行けるのかどうかも問われていると感じています。

【成果を生かした今後のアクションの考察】

今回寄せられた素晴らしいアイディア群。この成果を、我々はいかに生かしていくことができるでしょうか。今回得ることのできた成果の中で、実際に社会に機能させていきたいと願うバンダナ、今後、真価を問われるべきバンダナは優秀と選定された提案のみではないと感じています。いろいろと大切なヒントを与えてくれた各案、そこに込められた可能性をいかに社会で活用させていけるのか。我々はそこを考え、追求しながら、このバンダナの思考をより深め、また、時に実験的な実働にもおよびながら、減災コミュニケーション・バンダナについて、今後も追求していきたいと考えています。

そのためには、提案を寄せていただいた各位との今後、次の段階に向けたやりとりをはじめさせていただく可能性があると感じています。その際にはぜひ引き続き協力をいただけることを願っています。

また、むろん、各提案者が自らのアクションで減災バンダナを世に送り出すということも、第三者が製品化をサポートしてくださることも、あって良いことです。事務局と、そうした当事者とが共同で具体性を描いて行くといった展開もあって良いことと思いますし、推奨していきたいと思います。(具体的には別途お伝えしていきます。)

そうした展開を計りながら、今回の成果を大切に暖め続け、より大きな成果を導けることを願っています。

そして、何か具体的な成果に到達したとき、また次のコンテンスト開催の機会について考えることになるだろうと感じています。

ご提案・ご協力をいただいた皆様に改めて深く感謝を申し上げ、総評とさせていただきます。

今後とも皆様からのご指導、ご鞭撻を賜りますことを、よろしくお願い申し上げます。

2016年12月

平林 英二